【新・旬感くまもと/山都町・つながるシェア田】美しい棚田を次世代へ!生産者と消費者をつなぐ“棚田オーナー制度”ー山都町

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旬感くまもと

日本最大級の石造水路橋「通潤橋(つうじゅんきょう)」のある町

熊本県の東部、“九州のへそ(ほぼ中心部)”に位置する山都町。深い山々に囲まれ、静かで穏やかな時が流れる地域は、「美しい日本のむら景観百選」にも選ばれています。パワースポットとして知る人ぞ知る「幣立(へいたて)神宮」や、自然の材料で作った大迫力の「大造り物」が町を練り歩く「八朔祭(はっさくまつり)」などが有名です。さらに、有機農業が盛んで、有機JAS認証事業者数が全国で最も多く、町内の小中学校では有機栽培の米や野菜を使った給食が提供されています。

同町で、長年にわたり農業を支えてきた町のシンボルとも言える存在が、石造アーチ水路橋として日本最大級の規模を誇る「通潤橋」です。2023年には、土木構造物として全国初の国宝に指定されました。通潤橋は、1854年(嘉永7年)に水不足に瀕していた白糸台地に農業用水を送るために建設され、現存する石造アーチ橋の中で唯一、放水できる橋です。通潤橋内の用水路を通った水は、今も白糸台地の約100haの水田を潤しており、一帯には棚田の美しい景観が広がっています。

通潤橋と通潤用水の放水
通潤用水と白糸台地の棚田景観は、国の重要文化的景観にも選定されており、年間の定められた期間には、間近で豪快な放水を望むこともできます
幣立神宮
パワースポットとして注目されている「幣立神宮」。境内には古木や巨木が生い茂り、神聖な空気が漂っています
八朔祭の大造り物
毎年9月の第1土曜・日曜に実施されている「八朔祭」。五穀豊穣を願う大造り物の引き回しは見ものです

■通潤橋

生産者と消費者が協力して棚田を保全する仕組み

山都町の棚田は、「日本の棚田百選」にも選ばれています。一方で近年、高齢化や人口減少により耕作放棄地が増加。長年受け継がれてきた美しい棚田の風景が失われつつあります。

東京都内で食育講座を開催している「つながるキッチン」代表の中原麻衣子さんは、夫の出身地である山都町の現状を知り、「自分に何かできないか」と考え、2015年から「つながるシェア田」という棚田保全活動を始めました。

これは、参加費を払うことで山都町の棚田で作られた無農薬米が定期的に届けられるオーナー制度で、現在約100組のオーナーがいます。毎年、山都町での田植えや稲刈りのイベントを実施。イベントに協力している生産者の一人、松川陽一さんは「当たり前のように食べている米がどうやって育てられているのか知ってもらうきっかけになる。都市間交流もでき、消費者の声が直接聞けるのが何よりうれしい」と話します。

山都町棚田保全活動「つながるシェア田」主催者の中原さん
山都町棚田保全活動「つながるシェア田」主催者の中原さん。「消費者と生産者のウェルビーイング(良好)な関係を築き、食と農業の未来を後世につないでいきたい」と語ります
合鴨農法
「つながるシェア田」の米は、合鴨農法・自然農法で栽培され、農薬・化学肥料不使用です

首都圏からのリピート参加者も多数。“体験”で繋がる取り組みも

毎年開催されている「つながるシェア田」のイベント「お田植祭!」。2025年は6月21日・22日に開催され、東京都や神奈川県などの首都圏からの家族連れなど約30人が参加しました。千葉県在住でオーナー歴6年の女性は、これまでに親子で3回参加。「山都町に来る度に、『ただいま』と実家に帰ってきたような気持ちになって、毎年訪れるのが楽しみ」と話していました。また、参加者の中には元メジャーリーガーの岡島秀樹さん家族も。9年前からオーナーになっていて、田植えにもたびたび参加しています。「自然の中で幅広い世代の人たちと一緒にバーベキューや花火を楽しめるし、生産者と実際に会って絆を深めることもできる貴重な経験になっている」とオーナー制度の意義を実感しています。

「関わってくれる生産者やオーナーが増え、棚田の面積も増えてくれれば。生産者の思いや米作りのストーリーを知ってもらい、棚田の美しい景観を未来につないでいくためにも持続的に活動を続けていきたい」と話す主催者の中原さん。オーナーや生産者たちと共に、これからも「つながるシェア田」の取り組みを通して、受け継がれてきた文化や景観を未来へと繋いでいきます。

田植えを楽しむ参加者ら
山都町の大自然の中で、心も体も開放され田植えを楽しむ参加者ら(右から4人目が岡島さん)
田んぼで遊ぶ参加者
子どもも大人も夢中になって、田んぼで思いっきり体を動かしていました
田植え機に乗せてもらう子ども
田植え機に乗せてもらう貴重な体験も。子どもたちは興味津々でした
田植え参加者たち
今年の田植えには13組30名のオーナーが参加
参加者の親子
「お米がモチモチと甘くて美味しい」と話す千葉県から参加の親子。山都町の棚田米を食べるようになってから、子どもがご飯の味の違いに敏感になったそう
参加者の子ども
田植え体験後は生産者宅で昼食。ご飯を食べて思わず笑顔になる子どもたちの姿が印象的でした

■つながるシェア田

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