人吉の未来をデザインする、新しいかたち
令和2年7月豪雨の復旧から、未来型復興へ
2020年7月、熊本県南部を襲った「令和2年7月豪雨」で甚大な被害を受けた人吉市。あれから約5年の歳月がたち、災害からの「復旧」を経て、その先の発展を見据えた「未来型復興」へと歩みを進めています。
「被災前よりも住みよいまちを創ろう」という基本理念のもと、官民が連携して取り組む「人吉市まちなかグランドデザイン推進アクションプラン」について、人吉市復興支援課まちづくり推進係の係長・尾方さんと山田さんにお話を伺いました。
安全・安心を基本として、球磨川をはじめとした自然や歴史的景観を生かした、思わず“ワクワク”するまちづくりのアイデアが次々と生みだされています。


「つかう目線」のまちづくり
熊本県南部に位置し、鎌倉時代より相良藩の城下町として発展してきた人吉市。往時の面影を伝える国宝・青井阿蘇神社などの史跡をはじめ、日本三急流のひとつである球磨川がはぐくんだ球磨焼酎などの食文化が魅力です。
昔から人吉の発展や市民の生活を支えてきた球磨川ですが、時には災害をもたらす存在でもありました。2020年に発生した「令和2年7月豪雨」では、線状降水帯の影響で県南部に記録的な大雨が降り、球磨川が氾濫。市街地の多くが浸水し、市全体の約2割にあたる3398世帯に被害を及ぼす歴史的な大災害となりました。
災害後、1日でも早く復旧・復興を進めるために人吉市は基本方針をまとめた「人吉市復興計画」を策定。その後、被害のあった8地区で住民との懇談会を重ね2021年10月に復興まちづくり計画を定めました。
「計画では球磨川と共に生きるということを目指した『未来型復興』を掲げていますが、そうした復旧・復興の過程には国・県・市などさまざまな機関・部署が関わっています。それらを統括しクオリティコントロールをしながら進めていくための組織として立ち上がったのが『まちづくりデザイン会議』です。大学教授や専門家、そして地域への強い思いと行動する力を持つ民間が集まり、具体的な方針や案の準備を担っています」(山田さん)

その中で、特に被害が大きかった「まちなか」3地区(中心市街地地区、青井地区、麓・老神地区)の将来像とプロジェクトを示した「人吉市まちなかグランドデザイン推進方針」を2024年3月に策定。この方針を実現するための具体的なアイデア集としてつくられたのが「人吉市まちなかグランドデザイン推進アクションプラン」です。
この取り組みでユニークなのが、社会実験を活用した「つかう目線」が主体となった進め方です。
「従来、“つくる”側の行政や開発者がビジョンを設定しハード整備を行い、その後に事業者や居住者が運営・利用するのが主流ですが、このアクションプランはその反対。市民や事業者など、活動を行う“つかう”側が主体となって、ビジョン作りや社会実験の検証に関わっています。2024年12月に開催した『人吉復興まちづくり合同意見交換会』では、地元の高校生を含むさまざまな世代の市民の方々が集まり、市内外の事業者や有識者とともにまちづくりについての多様なアイデアを出し合いました」(山田さん)

社会実験で作りあげる、“ワクワク”の未来
「社会実験」とは、アクションプランの目指す将来像を事前にみんなで体験するために小規模かつ期間限定の取り組みなどを行い、そこで得た気づきや評価を将来のハード整備に生かしたり、地域からの理解に繋げたりする手法です。
例えば、アクションプランで定められた拠点の1つである「中川原公園+大橋」エリアは、日常の憩いの場とするために、照明や樹木などを設置し球磨川を代表する水辺空間となることを目指しています。そこに向けた社会実験として、ベンチなどの対流空間を仮設で設置したり、マルシェなどを民間主体で開催したうえで、広場の使いやすさなどについてアンケートを実施。その結果を今後の計画に生かしています。

そのほか、「青井阿蘇神社+球磨川」エリアでは周辺道路の歩行者専用道路化と夜の景観を楽しめる灯の演出を行ったり、「城見庭園+HASSENBA」エリアでは城跡・球磨川を臨むデッキややぐらを設置したり、球磨川の各地点では民間のアクティビティ会社協力のもとSUPやゾーブ、テントサウナの体験を企画したりするなど、全10拠点でさまざまな社会実験を行いながら将来イメージの具体化に向けた取り組みを進めています。
「アイデアの多くは市民が集まって意見を出し合う合同意見交換会や『担い手ワークショップ』から実現したもの。人吉市は水害で大きな被害を受けましたが、市民の多くは『それでも球磨川とともに住み続けたい』という思いを持つ人が多いんです。安心・安全を第一に、そのうえで市民の皆さんが『楽しい!』と思える人吉のまちを作っていきたいです。加えて、それを見た市外の人が『なんで人吉にはこんなに魅力があるんだろう』と興味を持ってもらえる未来を目指したいですね」(尾方さん)



災害からの復旧にとどまらず、市民の暮らしや商工業の再生、その先の発展を見据え、「つかう目線」を大切にまちづくりを進める人吉市。アクションプランが描く“新しい人吉”の姿に、これからも期待が高まります。




